「なんで自分だけうまくいかないんだろう」
職場でそんなふうに感じたことはありませんか?
- 指示の意味がつかめない
- 急な変更に対応できない
「ちゃんとやっているつもり」なのに、なぜかすれ違いが起きてしまう——。
ASD(自閉スペクトラム症)のある方が仕事でぶつかる困りごとは、「やる気がない」や「努力不足」とは無関係です。脳の情報処理の仕方に生まれつきの違いがあり、それが職場という環境のなかで「困りごと」として現れてくるのです。
この記事では、ASDの特性がどのように職場での困りごとにつながるのかを、支援の現場で感じていることも交えながら解説します。「自分のことかもしれない」と思っている方、ご家族の方、ぜひ最後まで読んでみてください。
そもそもASDってどんな特性?
ASD(自閉スペクトラム症)は、発達障害のひとつです。「スペクトラム」という言葉が示すとおり、その特性の現れ方には幅があり、一人ひとりまったく違います。「これがASDの人の特徴」と一言ではまとめられないほど、多様性のある障害です。
大きく分けると、次の2つの軸で特性が現れることが多いとされています。
ASDの主な2つの特性軸
① 社会的コミュニケーション・対人関係の難しさ
相手の気持ちや場の雰囲気を読み取ること、会話のキャッチボールをすること、暗黙のルールに沿って動くことが難しい傾向があります。
② こだわりの強さ・感覚の過敏さ
特定のやり方へのこだわりが強く、予定外の変更に対応するのが苦手なことがあります。また、音・光・触感などに対して人より強く反応する感覚過敏を持つ方も少なくありません。
大切なのは、これらが「性格の問題」や「わがまま」ではないということです。脳の神経発達の違いによるものであり、本人の意志でコントロールしきれるものではありません。
アイ・ワークスの支援の現場でも、「子どものころから何かうまくいかないことが多かったけれど、大人になって診断されて初めて理由がわかった」という方に多く出会います。診断は「レッテル」ではなく、自分を理解するための「入口」です。

仕事で困りやすいポイント5つ
ASDのある方が職場でぶつかりやすい困りごとを、代表的なものから見ていきましょう。「あ、これ自分だ」と思う項目があるかもしれません。
① 曖昧な指示が理解しにくい
「なるべく早くやっておいて」「いい感じにまとめて」「臨機応変に対応して」——こういった言葉、職場ではよく使われますよね。でもASDのある方にとって、こうした曖昧な表現は非常に処理しにくいものです。
「なるべく早く」とはいつまでに?
「いい感じ」とはどのレベル?
「臨機応変」とは具体的に何をすれば?
言葉を字義通りに受け取りやすいというASDの特性により、相手が何を求めているのかがつかめず、動けなくなってしまうことがあります。
🗣️ 支援スタッフより
「利用者の方から『上司に”適当にやっておいて”と言われて、どこまでやればいいかわからなくて固まってしまった』というお話をよく聞きます。本人は真剣に考えているからこそ、曖昧さに立ち往生してしまうんですね」
② 急な予定変更や想定外の出来事に弱い
「今日の会議、急に時間が変わりました」「この業務、先にこっちをやってください」——そんな一言が、ASDのある方にとっては大きなストレスになることがあります。
見通しを持って動くことが得意な反面、予定外の変化が起きると頭のなかが混乱し、次の行動に移れなくなってしまうことがあります。「なぜこんなことで」と周囲に思われてしまうこともありますが、本人にとっては本当に対応が難しい状況です。
③ 複数のことを同時に進めるのが苦手(マルチタスク)
電話しながらメモを取る、複数の案件を並行して進める——いわゆる「マルチタスク」は、多くのASDのある方にとって大きな負荷になります。
ひとつのことに深く集中できるという強みの裏返しとして、複数の物事を同時に処理しようとすると、優先順位が定まらなくなって混乱してしまうことがあります。「何から手をつければいいかわからない」という状態に陥ると、どれも手がつかなくなってしまうことも。
④ コミュニケーションでのすれ違いが起きやすい
職場の会話では、言葉にされていない部分——表情、声のトーン、場の空気——から多くの情報が伝えられています。しかしASDのある方は、こうした非言語のコミュニケーションを読み取ることが難しい場合があります。
また、思ったことを率直に口にしてしまい、意図せず相手を傷つけてしまったり、冗談やたとえ話を字義通りに受け取って混乱したりすることもあります。「空気が読めない」「一方的に話す」と周囲に誤解されてしまうと、職場での人間関係が難しくなっていきます。
【吹き出しブロック|SWELLのふきだしブロック(スタッフ目線)】
🗣️ 支援スタッフより
「悪意がまったくないのに、ちょっとした一言で関係がこじれてしまった、という経験をされている方は多いです。本人も傷ついている。そのつらさに寄り添いながら、コミュニケーションの練習をいっしょにしていくのが私たちの役割のひとつです」
⑤ 感覚過敏による疲弊
オフィスの騒音、蛍光灯のちらつき、特定の匂い——ASDのある方のなかには、こうした感覚刺激に人より強く反応する「感覚過敏」を持つ方がいます。
周囲には気にならないレベルの刺激であっても、本人にとっては業務に集中できないほどのストレス源になることがあります。「なぜこの人は少しの音でこんなに疲れるのか」と周囲が理解しにくいのも、コミュニケーションのズレにつながりがちです。
「困りごと」の裏にある、ASDならではの強み
困りごとばかりに目が向きがちですが、ASDの特性は弱みだけではありません。支援の現場で私たちが実感するASDのある方の強みには、こんなものがあります。
ASDのある方が仕事で発揮しやすい強み
- 高い集中力:興味・関心のある分野に対して長時間深く取り組める
- 正確さへのこだわり:ルールや手順を忠実に守り、ミスが少ない
- 専門性の高さ:特定の知識を深く掘り下げ、スペシャリストになりやすい
- 公平さ・誠実さ:えこひいきや忖度なく、フラットに物事に向き合える
- 記憶力の高さ:正確な情報を長期にわたって記憶しておける
「困りごとがある」ということと「強みがある」ということは、コインの表と裏のような関係です。どちらか一方だけが「本当の自分」なのではなく、両方が自分の特性のあらわれなのです。

困りごとを一人で抱えないために
ASDの特性による困りごとは、本人の努力だけで乗り越えようとすると、じわじわと心身を消耗させていくことがあります。「もっと頑張れば何とかなる」と無理を続けた結果、二次的にうつや不安障害が現れてしまうケースも少なくありません。
大切なのは、「自分の特性を知ること」と「適切な環境・サポートを整えること」です。
【ステップブロック|SWELLのステップブロック】
「何が得意で、何が苦手か」を言語化することが出発点です。診断書がなくても、自分の傾向を整理するだけで、職場での動き方が変わってきます。
指示はメモやメールで確認する、タスクを一覧に書き出す、イヤーマフや静かな場所で作業するなど、小さな工夫が積み重なると大きな違いになります。
一人で抱えないことが最も大切です。職場の上司や産業医、そして就労移行支援機関も力になれます。「相談すること」は、自分を守るための前向きな選択です。
アイ・ワークスでできること
アイ・ワークスでは、ASDをはじめとする発達障害のある方の就職・職場定着をサポートしています。
特性の整理から、職場でのコミュニケーションの練習、合理的配慮の申し出方のアドバイスまで、一人ひとりのペースに合わせた支援を行っています。「どこから始めたらいいかわからない」という方も、まずは見学や相談からどうぞ。
よくある質問
まとめ
この記事のまとめ
- ASDの困りごとは、性格や努力の問題ではなく「特性」から生まれる
- 曖昧な指示・急な変更・マルチタスク・コミュニケーション・感覚過敏が主な職場での困りごと
- 困りごとの裏には、集中力・正確さ・専門性などの強みがある
- 自分の特性を知り、環境を整え、支援を活用することが大切
- 一人で抱え込まず、まずは相談することから始めよう



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