何度も確認したのに、また同じミスをしてしまった。 真面目に取り組んでいるはずなのに、なぜか自分だけミスが多い。 「どうして確認しなかったの?」と言われても、何を確認すべきだったのか分からなかった。
そんな経験が積み重なって、「自分は仕事ができないのかもしれない」と感じ始めている方もいらっしゃるかもしれません。
「ミスが多いのはなぜ?」と感じているあなたへ
この記事は、ASD(自閉スペクトラム症)のある方、またはその傾向があるかもしれないと感じている方に向けて、仕事でミスが起こりやすい理由を整理して解説するものです。
結論からお伝えします。
ASDのある方のミスの多くは、能力不足でも、やる気の問題でもありません。 特性と、職場環境や仕事の進め方との「ミスマッチ」から生まれています。
あなたを責めるための記事ではありません。 ミスの背景を正しく知り、対策を考えるための入口として、参考にしてください。

ミスは「作業中」だけで起きているわけではない
仕事のミスというと、「うっかり」「不注意」を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、仕事を分解してみると、ミスが生まれる場面は作業中だけではありません。
- 指示を受け取るとき(聞き間違い・解釈のズレ)
- 段取りを組むとき(優先順位・手順の組み立て)
- 作業をするとき(集中・切り替え・同時進行)
- 報告・確認をするとき(報連相のタイミング)
支援の現場で感じるのは、ASDのある方のミスは、作業そのものよりも「受け取り」「段取り」「報連相」の段階で起きていることが多い、ということです。手を動かす作業は、むしろ正確で丁寧な方が多いのです。
だからこそ、「注意してください」「確認してください」という注意や指導だけでは、ミスは減りません。 どの段階でつまずいているのかを知ることが、対策の第一歩になります。
ASDの人が仕事でミスしやすい8つの理由
ここからは、支援の現場でよく見られる8つの理由を紹介します。
すべてが当てはまるわけではありませんし、当てはまるからといってASDと決まるわけでもありません。 あくまで「傾向」として読んでください。
① 曖昧な指示を、自分の解釈で受け取ってしまう
よく見られる場面
- 「いい感じにまとめておいて」で作った資料が、依頼者のイメージと違っていた
- 「なるべく早めに」を数日後と解釈して、催促されてしまった
- 指示どおりにやったつもりなのに、「そうじゃない」と言われた
背景にある特性
- 言葉をそのまま受け取りやすい
- 文脈や相手の意図から「言われていない部分」を推測することが難しい
本人は指示どおりに一生懸命やっています。 「話を聞いていない」のではなく、指示の中の曖昧さを埋める方法が違うのです。
② 暗黙のルールに気づきにくい
よく見られる場面
- 教わったとおりにやったのに、「普通は先に確認するでしょ」と注意された
- 部署ごとの「慣例」を知らずに進めて、手戻りになった
- 誰も教えてくれなかったことで、ミス扱いされた
背景にある特性
- 明文化されたルールを守ることは得意
- 明文化されていない「暗黙の了解」を察することが苦手
これは本人の常識のなさではなく、ルールが言語化されていないことの問題でもあります。
③ 優先順位をつけることが難しい
よく見られる場面
- 目の前の作業に着手して、より急ぎの仕事が後回しになった
- どれから手をつけるか考え込んで、どれも進まなくなった
- 頼まれた順番どおりに進めて、締切の早いものが間に合わなかった
背景にある特性
- 締切・重要度・相手の事情など、複数の情報を同時に天秤にかけることが苦手
逆に言えば、優先順位さえ明示されていれば、順番どおり正確に進められる方が多くいらっしゃいます。
④ 急な変更・イレギュラーで混乱しやすい
よく見られる場面
- 手順やルールが急に変わった日に限って、ミスが重なる
- 割り込み仕事が入ると、頭が真っ白になる
- 担当者や場所の変更で、普段どおりの力が出せない
背景にある特性
- いつもと同じであることへの安心感(同一性の保持)
- 一度組み立てた手順が崩れると、再構築に大きなエネルギーが必要になる
普段は正確な方ほど、変更のあった日のミスが目立ってしまうことがあります。
⑤ マルチタスクと「中断」に弱い
よく見られる場面
- 電話対応をしたら、直前までやっていた作業の続きが分からなくなった
- 話しかけられて中断したあと、作業の一部が抜けてしまった
- 口頭で複数の指示を受けると、最初の指示を忘れてしまう
背景にある特性
- 情報を頭の中に一時的に保持する「ワーキングメモリ」に負荷がかかりやすい
- 一つのことへの集中力が強い分、割り込みで記憶が飛びやすい
「集中していないから」ではありません。 むしろ集中できる環境であれば、高い正確性を発揮できる方が多いのです。
⑥ 報連相の「タイミング」が分からない
よく見られる場面
- 疑問を抱えたまま自己判断で進めて、後から大きなミスとして発覚した
- 忙しそうな上司に声をかけられず、確認できなかった
- 逆に確認しすぎて、「そのくらい自分で考えて」と言われた
背景にある特性
- 「どのくらい分からなかったら聞いていいのか」の線引きが曖昧
- 相手の状況を読んで声をかけるタイミングをはかることが難しい
「聞くべきライン」が決まっていない職場ほど、このタイプのミスは起こりやすくなります。
⑦ 完璧主義・こだわりが「時間切れ」を生む
よく見られる場面
- 細部にこだわりすぎて、締切に間に合わなかった
- 100点でないと提出できず、途中経過を見せられない
- 本題ではない部分の修正に時間を使ってしまった
背景にある特性
- 強いこだわり・自分の中の基準の高さ
- 「何点で出してよいか」という曖昧な基準の判断が難しい
仕事では「70点でいいから今日中に」が求められる場面が多くあります。 これは真面目さの裏返しであって、要領の悪さではありません。
⑧ 感覚過敏と疲労の蓄積が、集中力を奪う
よく見られる場面
- 午後になるとミスが増える
- 週の後半に調子を崩しやすい
- 雑談や電話の多いフロアだと、作業が頭に入らない
背景にある特性
- 聴覚・視覚などの感覚過敏
- 周囲の音や光、人の気配に耐えることに、多くのエネルギーを使っている
見落とされがちですが、とても重要な要因です。 作業能力の問題ではなく、環境による疲労がミスにつながっているケースは少なくありません。

ミスが続くと起こりやすいこと(二次的な影響)
ここまで見てきたように、ASDのある方のミスには特性上の理由があります。
しかし周囲からは、
- 「不注意」
- 「やる気がない」
- 「常識がない」
と誤解されやすく、叱責が繰り返されがちです。
その結果、
- 「また怒られるかも」という不安で、さらにミスが増える
- 質問や報告ができなくなり、ミスが大きくなってから発覚する
- 自信を失い、心の不調(二次障害)につながる
という悪循環に陥ってしまうことがあります。
支援の現場で出会う方の多くは、ミスそのものよりも、この悪循環の中で心をすり減らした経験を抱えています。
だからこそ大切なのは、「ミスを叱って直す」ことではなく、「ミスが起きにくい仕組みをつくる」という発想の転換です。
本人ができる工夫
特性そのものを変えることはできませんが、ミスを減らす工夫はあります。
- 指示は復唱して確認する(「◯◯を、△△までに、□□の形で、ですね」)
- 口頭指示はメモやチャットで文字に残す
- 「早めに」「いい感じに」は、数字や見本に置き換えて聞く
- やることはリストに書き出し、優先順位は職場に確認する
- 作業を中断するときは、「どこまでやったか」を一言メモしてから離れる
- 「5分考えて分からなかったら聞く」など、質問のルールを先に決めてもらう
- イヤホンの使用許可や席の調整など、感覚面の負荷を下げる相談をする
曖昧さを具体化する質問は、失礼なことではありません。 確実な仕事のための、正当な確認です。
職場・周囲の方ができる配慮
ASDのある方と一緒に働く方には、次のような配慮をおすすめしています。
- 指示は具体的に、できれば文字で(「いい感じに」→「A4で1枚、明日15時までに」)
- 優先順位を明示する(「AとBならAが先。Bは明後日でOK」)
- 暗黙のルールは、最初に言葉にして伝える
- 変更はできるだけ早めに、理由とセットで伝える
- 完成後ではなく、2割・5割の時点で途中経過を確認する
- ミスの指摘は「人」ではなく「仕組み」に向ける(「なぜ確認しなかったの?」→「次からこのチェックリストを使おう」)
これらの配慮は、ASDのある方だけのためのものではありません。 指示の曖昧さや暗黙のルールは、誰にとってもミスの温床です。 実は、職場全体のミスを減らす仕組みでもあるのです。
支援現場から見えること|環境が変われば、ミスは減る
就労支援の現場では、「前の職場ではミスばかりだったのに、環境が変わったらほとんどなくなった」という方に数多く出会います。
変わったのは、本人の能力ではありません。
- 指示が具体的になった
- 手順が明文化された
- 質問のルールが決まった
- 集中できる環境が用意された
つまり、特性と環境のミスマッチが解消されただけなのです。
大切なこと|ミスは「あなたの価値」の問題ではない
「自分はミスが多いダメな人間だ」
そう感じている方がいらっしゃったら、思い出してください。ミスは、特性と環境のミスマッチのサインであって、あなたの価値の問題ではありません。特性を知り、環境を整えることで、無理の少ない働き方が見えてくることもあります。
もし仕事の中で困りごとが続いているなら、相談という選択肢があることを思い出してください。 当事業所でも、働くことに悩みを抱える方からの相談を受け付けています。

よくいただく質問
※医学的な診断や評価については、必ず医療機関へご相談ください。

